多角形を用いた求め方
3<π<4の証明 の流れを汲んで $\pi$ の値を求めることを考える。 基本的には
\[ (\text{内接多角形の周}) < (\text{円周}) < (\text{外接多角形の周}) \]の不等式に基づいて多角形の角の数を多くすることで $\pi$ を上下から挟みこむ方針である。 実はこの不等式は「周」を「面積」としても $n$ に依存する角度が違うだけで同じような流れになる。 ここでは面積の方が説明が楽なので面積で論を進める。
単位円に内接する正 $2n$ 角形、円に外接する正 $n$ 角形について考える。 図1 の一番内側にある青い三角形が $2n$ 角形の一部、 外側にあるオレンジが外接 $n$ 角形の一部に該当する。
このとき青三角形の面積 $S_{\rm in}$、 扇型(2つの三角形に挟まれた円弧が見える)の面積 $S_C$、 橙三角形の面積 $S_{\rm out}$ はそれぞれ
\[ S_{\rm in} = \frac{1}{2}\sin\theta,\quad S_C=\frac{1}{2}\theta,\quad S_{\rm out} = \frac{1}{2}\tan\theta \]となる。ここで $\theta=\dfrac{\pi}{n}$、 $S_{\rm in} < S_C < S_{\rm out}$ から
\[ \frac{1}{2}\sin\frac{\pi}{n} \lt \frac{1}{2}\frac{\pi}{n} \lt \frac{1}{2}\tan\frac{\pi}{n} \] \[ \therefore n\sin\frac{\pi}{n} \lt \pi \lt n\tan\frac{\pi}{n} \tag{1} \]なお (1) 式において、左辺の $n$ を 6、右辺の $n$ を 4 としたら 3<π<4の証明と同じ結果になる。
ちなみに式(1) で $\sin$ や $\tan$ の引数にある $\pi$ は 「2直角」という意味合いしかないため、具体的な値を知らなくても問題ない。 要はその角度 $\dfrac{\pi}{n}$ に対する $\sin$ と $\tan$ の値が分かれば良いだけである。
$\dfrac{\sin\theta}{\theta}$ や $\dfrac{\tan\theta}{\theta}$ は θ→0 で 1 になるから
\[ \lim_{n\rightarrow\infty}n\sin\frac{\pi}{n} = \lim_{n\rightarrow\infty}\pi\frac{n}{\pi} \sin\frac{\pi}{n} = \pi \] \[ \lim_{n\rightarrow\infty}n\tan\frac{\pi}{n} = \lim_{n\rightarrow\infty}\pi\frac{n}{\pi}\tan\frac{\pi}{n} = \pi \]また $n\sin\dfrac{\pi}{n}$ は単調増加し、 $n\tan\dfrac{\pi}{n}$は単調減少するので、 $n$ が大きい方が正確な値を示す(より狭い範囲で評価できる)ことになる。
具体的な値としてどの程度違っているかを以下に示す。 $\pi_{\sin}=n\sin\dfrac{\pi}{n}$、$\pi_{\tan}=n\tan\dfrac{\pi}{n}$ とすると
$n$ | $\pi_{\sin}$ | $\pi_{\tan}$ | $\log_{10}|\pi_{\tan}-\pi_{\sin}|$ |
---|---|---|---|
3 | 2.59807621135332 | 5.19615242270663 | 0.414651886 |
10 | 3.09016994374947 | 3.24919696232906 | -0.798529083 |
100 | 3.14107590781283 | 3.14262660433512 | -2.809473187 |
1000 | 3.14158748587956 | 3.14160298905616 | -4.809579306 |
10000 | 3.14159260191267 | 3.14159275694405 | -6.809580365 |
100000 | 3.14159265307302 | 3.14159265462334 | -8.809580303 |
1000000 | 3.14159265358463 | 3.14159265360013 | -10.80957993 |
10000000 | 3.14159265358974 | 3.14159265358990 | -12.80846173 |
100000000 | 3.14159265358979 | 3.14159265358979 | -14.65355977 |
上の表から、大体 $n$ を10倍にすると正確な桁が2桁伸びる、 つまり正しい桁数が角数 $n$ に対して $O(\log n)$ の正確さを持っていることが分かる。