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2 項の arctan 公式が 4 種しかない証明

arctan系公式 のうち,2 項しかないもの,つまり

\[ \frac{\pi}{4} = k\arctan \frac{1}{m} + l\arctan\frac{1}{n} \tag{1} \]

が 4 種類しか無いことを示す. ただし $k$,$l$ は自然数,$m$,$n$ は 0 でない整数とする.

なお,ここでは [JM02] で出題された 『エレガントな解法を求む』 に対する解答として示された証明[JM03] を元に,単発の証明として再構成する. 引用元の証明もまた 19 世紀に Störmer が示したものに従っての証明である.

証明 に先立っていくつかの用語,補題,定理の紹介を行う.

補助知識

ガウス整数環

ガウス整数 は,端的に言えば 2 整数 $a$,$b$ を用いて $a+bi$ と表される複素数のことであり, その集合体 $\mathbb{Z}[i]$ をガウス整数環 という. この環の中では一般的な素数が 2 値の積として表される場合もある.

\[ 5 = (1+2i)(1-2i) = (2+i)(2-i) \]

また,$\pm1$,$\pm i$ のように ノルム (${\rm Norm}(a+bi) = a^2+b^2$)が 1 である数を 単数 といい, 単数と,単数でない 1 つの値との積にしか因数分解できない値を ガウス素数 という. 単数が 4 つあることから,ガウス素数は 4 種類の因数分解ができる. そのため,適当な単数をかけると同じ値になるものは全て 同伴 という. 例えば $1+2i=i(2-i)$ なので $1+2i$ と $2-i$ は同伴である. ガウス整数環の数値は同伴の値を 1 つと見れば一意に素因数分解できる.

定理 1. ガウス素数

ガウス素数は,次の 3 種類しか存在しない.

  1. $1+i$
  2. $4n+3$ の素数とその同伴
  3. ノルムが $4n+1$ の素数となる数

定理 2. $x^2+1=y^p$ または $x^2+1=2y^p$ の整数解について

整数 $x$,$y$,$p$ ($x\gt0, y\gt1$) と $x^2+1=2^ky^p$ ($k=0,1$) について,以下が成り立つ.

  1. $x^2+1=y^p$ は $p\gt 1$ で解が無い.[FT11]
  2. $x^2+1=2y^p$ は $p$ が奇数の素因数を含むと解が無い.
  3. $x^2+1 = 2y^4$ の解は $(x,y)=(239,13)$ のみ.[FT12]

以上から,この方程式に解が存在する必要条件は $p=1,2,4$

証明

$k$ と $l$ の最大公約数を $d$ とすると,(1) は

\[ \frac{\pi}{4d} = \frac{k}{d} \arctan\frac{1}{m} + \frac{l}{d} \arctan\frac{1}{n} \]

と変形できる. ここで $d\gt 1$ を仮定する。 両辺の tan をとると arctan の係数が整数になっているので, tan の加法定理から右辺は有理数になる。 一方で左辺を考えると、「有理数 $q$ に対して,$\tan q^\circ$ (度数法ということに注意) が有理数になるのは $\tan q^\circ=0, \pm1$ のときに限る.」[FB06] ことから矛盾する.つまり $d=1$ である. したがって

\[ (m+i)^k(n+i)^l(1-i) \]

は実数であり,共役な数と等しい.

\[ (m+i)^k(n+i)^l(1-i) = (m-i)^k(n-i)^l(1+i) \tag{2} \]

ここで 2 数 $\mu$,$\nu$ を, それぞれ $m$ と $n$ を 2 で割った余り(0 または 1)として定義する.

\[ \mu := m \bmod 2,\ \nu := n \bmod 2 \]

これを使って $m+i=(1+i)\mu(a+bi)$ とすると両辺のノルムを取って $m^2+1=2^\mu(a^2+b^2)$ が成り立つので $a^2+b^2$ は奇数である. そのため $a+bi$ は $1+i$ の倍数ではない. また,$n+i=(1+i)\nu(c+di)$ とすると同様に $c+di$ も $1+i$ の倍数ではないことが分かる.


ここで $(1+i)=i(1-i)$ を踏まえて (2) 式を書きなおすと

\[ i^{k\mu+l\nu-1}(a+bi)^k(c+di)^l = (a-bi)^k(c-di)^l \tag{3} \]

となる.そして $a+bi$ と $a-bi$,$c+di$ と $c-di$ はそれぞれ互いに素なので,適当な単数 $\varepsilon$ を使って

\[ a+bi = \varepsilon_1 (\alpha+\beta i)^l, c-di = \varepsilon_2 (\alpha+\beta i)^k \] \[ a-bi = \varepsilon_1 (\alpha-\beta i)^l, c+di = \varepsilon_2 (\alpha-\beta i)^k \]

と表すことができる. 元の定義に代入しなおすと

\[ m+i = \varepsilon_1(1+i)^\mu(\alpha+\beta i)^l,\quad n-i = \varepsilon_2(1-i)^\nu(\alpha+\beta i)^k \tag{4} \]

このことから,$(m+i)+(n-i) = m + n$ は $\alpha + \beta i$ で割り切れる. また,$m+n$ は実数なので $\alpha-\beta i$ でも割り切れる.つまり

\[ m+n \ {\rm は}\ (\alpha+\beta i)(\alpha-\beta i) = \alpha^2+\beta^2 {\rm の倍数} \tag{5} \]

(4) 式のノルムをとったものと (5) 式を連立させると ($\alpha^2+\beta^2=A$ とする)

\[ \begin{cases} m^2+1=2^\mu A^l\\ n^2+1=2^\nu A^k\\ A | m+n \end{cases} \]

定理 2 と $|m|\lt|n|$ からこの連立方程式の上 2 式の解は以下の 5 種類になる.

\[ (I)\begin{cases} m^2+1 = A\\ n^2+1 = 2A \end{cases} \] \[ (II)\begin{cases} m^2+1 = A\\ n^2+1 = 2A^2 \end{cases} \] \[ (III)\begin{cases} m^2+1 = 2A\\ n^2+1 = 2A^2 \end{cases} \] \[ (IV)\begin{cases} m^2+1 = A\\ n^2+1 = 2A^4 \end{cases} \] \[ (V)\begin{cases} m^2+1 = 2A\\ n^2+1 = 2A^4 \end{cases} \]

(I) の場合

\[ (4) \Leftrightarrow \begin{cases} m+i = \varepsilon_1(\alpha+\beta i)\\ n+i = \varepsilon_2(1-i)(\alpha-\beta i) = \varepsilon_3 (1+i) (m-i) \end{cases} \] \[ \therefore n+i = \varepsilon_3 ((m+1)+(m-1)i) \]

ここで虚部を比較することで

\[ m\pm1 = \pm1\quad({\rm 複号任意}) \]

となる.$m\neq 0$ から $m=\pm2$ を得る.

さらに $n^2+1=2A=10$ より $n=\pm3$ となる. その結果,以下の公式を得られる.

\[ \frac{\pi}{4} = \arctan\frac12 + \arctan \frac13 \]

(II) の場合

\[ (4) \Leftrightarrow \begin{cases} m+i = \varepsilon_1(\alpha+\beta i)\\ n+i = \varepsilon_2(1-i)(\alpha-\beta i)^2 = \varepsilon_3 (1+i) (m-i)^2 \end{cases} \] \[ \therefore n+i = \varepsilon_3 ((m^2+2m-1)+(m^2-2m-1)i) \]

(I) と同様に虚部を比較することで

\[ m^2\pm2m-1 = \pm1\quad({\rm 複号任意}) \] \[ \therefore (m\pm1)^2 = 2\pm1\quad({\rm 複号任意}) \]

となる.$m\neq 0$ から $m=\pm2$ を得る.

さらに $n^2+1=2A^2=50$ より $n=\pm7$ となる. その結果,以下の公式を得られる.

\[ \frac{\pi}{4} = 2\arctan\frac12 - \arctan\frac17 \]

(III) の場合

(4) から,(II) と同様に以下の式を得る

\[ 2n+2i = \varepsilon_3((m^2+2m-1) + (m^2-2m-1)i) \]

ここで虚部を比較することで

\[ m^2\pm2m-1 = \pm2\quad({\rm 複号任意}) \] \[ (m^2\pm1)^2 = 2\pm2\quad({\rm 複号任意}) \] \[ \therefore m=\pm1, \pm3 \]

ここで $A\gt1$ より $|m|\gt1$ なので $m=\pm3$ であり,$n=\pm7$ を得る.

結果として以下の公式を得られる.

\[ \frac{\pi}{4} = 2\arctan\frac13 + \arctan\frac17 \]

(IV) の場合

定理 2 の 3. より $A=13$ である. これから $m^2+1=13$ を得るが, これは整数解を持たないので解は無い.

(V) の場合

定理 2 の 3. より $(n,A)=(239,13)$ である. さらに $m^2+1=2A=26$ より $m=\pm5$ を得る.

結果として以下の公式を得られる.

\[ \frac{\pi}{4} = 4\arctan\frac15 - \arctan\frac{1}{239} \]

(I)〜(V) より,(1) の形をした公式は以下の 4 つであることが示された.

\[ \begin{eqnarray} \dfrac{\pi}{4} &=& \arctan \dfrac12 + \arctan \dfrac13\\ &=& 2\arctan \dfrac12 - \arctan \dfrac17\\ &=& 2\arctan \dfrac13 + \arctan \dfrac17\\ &=& 4\arctan \dfrac15 - \arctan \dfrac{1}{239}\\ \end{eqnarray} \]