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π の文字使用について

現在,円周率を表す記号として世界中で π が用いられているが, 勿論 Archimedes の時代からそうだったというわけではない.

そもそもこの π はギリシア文字の 18 番目の文字で 「パイ」もしくは「ピー」と読まれる. 大文字では Π と表記する. ラテンアルファベット(英語などで使われるアルファベット)にある p (P) に対応する.

π は円周率として用いられる以前に, 円周の長さを表す記号として用いられた記録がある. 例えば 1631 年,William Oughtred が著した "Clavis mathematicae" では半円の円弧部分の長さを表す文字として[FB02], また Isaac Barrow の論文では半径 R の円周の長さとして π が用いられている.[JB02]

π が円周率として用いられた最初の例は William Jones が 1706 年に著した "Synopsis Palmariarum Mathesos" だと言われている.[FB02][FT08] だが,これがすぐに広く用いられるようにはならなかった. その後,Euler が 1736 年 "Mechanica sive motus scientia analytice exposita" で用いたことで数学者に π が広まった. そして同じく Euler が 1748 年に著した "Introductio in analysin infinitorum" により広く一般に π の使用が広まった.

π は何から来たの?

円周率を表す π が何から付けられたのか, という疑問を抱くのは当然のことである. いくつかの書籍によると

  • ギリシア語 περιφέρεια の頭文字
  • ギリシア語 περιμετρoς の頭文字
  • 英語 periphery の頭文字 P に対応するギリシア文字

のように様々な語源が挙げられているが, これらは全て根拠がない話であり, 明確には定まらないというのが正しい. 以下にその理由となる,初出論文を引用する.

まずは初めて円周率として用いられた π の論文を引用する. この論文には π の文字が何からつけられたか, は直接的には書かれていないため, 「π は○○の頭文字を取って使われるようになった」 という記述の一切には文献としての根拠は無い.

There are various other ways of finding the Lengths, or Areas of particular Curve Lines, or Planes, which may very much facilitate the Practice; as for Instance, in the Circle, the Diameter is to Circumference as 1 to

\frac{16}{3}\frac{4}{239}\frac{1}{3} \frac{16}{5%5e3}\frac{4}{239%5e3}\frac{1}{5} \frac{16}{5%5e5}\frac{4}{239%5e5} −, &c. = 3.14159, &c. = π ...

Whence in the Circle, any one of these three, α, c, d, being given, the other two are found, as, dc ÷ π = α ÷ \frac{1}{4}π1/2, cd × π = α × 4π1/2, α\frac{1}{4}πd2c2 ÷ 4π.

(※なお,この引用自体が孫引きになっているため元の論文では 誤っていないかもしれないが, π を求める式の最初の値は 16/3 ではなく16/5 が正しい. また,括弧でくくるべき部分がそのままになっているので, 訳文では修正している.)

参考までに,以下に訳文を書く.

特定の曲線や面といったものの長さや面積 を求めるためには,他にも様々な方法がある. 例えば,円についていえば, 直径に対する周の長さの比は 1 に対して

\frac{16}{5}\frac{4}{239}\frac{1}{3} \Bigl( \frac{16}{5%5e3}\frac{4}{239%5e3} \Bigr)\frac{1}{5} \Bigl( \frac{16}{5%5e5}\frac{4}{239%5e5} \Bigr) − … = 3.14159… = π
となる.

したがって,円においては α(面積), c(周長),d(直径) のうち 1 つが与えられれば他の 2 つは以下のように求められる. dc ÷ π = \sqrt{\alpha\div\frac{1}{4}\pi}cd × π = \sqrt{\alpha\times4\pi}\frac{1}{4}πd2c2 ÷ 4π

この初出については 1 つ重要な注釈が必要である. 上記引用は P.263 であるが,以下に引用するように P243 で 「直径 1 の円の周長の半分の長さ」として π が用いられている.

6a, or 6 × t\frac{1}{3}t2\frac{1}{5}t5, &c. = \frac{1}{2}Periphery (π)...
Let
α = 2\sqrt{3}, β\frac{1}{3}α, γ\frac{1}{3}β, δ\frac{1}{3}γ, &c.
Then
α\frac{1}{3}β\frac{1}{5}γ\frac{1}{7}δ\frac{1}{9}ε, &c. = \frac{1}{2}π,
or
α\frac{1}{3} \frac{3\alpha}{9}\frac{1}{5} \frac{\alpha}{9}\frac{1}{7} \frac{3\alpha}{9%5e2}\frac{1}{9} \frac{\alpha}{9%5e2}\frac{1}{11} \frac{3\alpha}{9%5e3}\frac{1}{13} \frac{\alpha}{9%5e3}, &c.

Theref. the (Radius is to 1/2 Periphery, or) Diameter is to the Periphery, as 1,000, &c to 3.141592653 . 5897932384 . 6264338327 . 9502884197 . 1693993751 . 0582097494 . 4592307816 . 4062862089 . 9862803482 . 5342117067. 9+ True to above a 100 Places; as Computed by the accurate and Ready Pen of the Truly Ingenious Mr. John Machin.

(※最初の式の (1/3)t の指数は 2 ではなく3 が正しい.訳文では修正している.)
6a,つまり 6 × \Bigl(t\frac{1}{3}t3\frac{1}{5}t5\Bigr)\frac{1}{2}周長 (π)
ここで
α = 2\sqrt{3}β\frac{1}{3}αγ\frac{1}{3}βδ\frac{1}{3}γ,…
とすると,
α\frac{1}{3}β\frac{1}{5}γ\frac{1}{7}δ\frac{1}{9}ε … = \frac{1}{2}π
もしくは
α\frac{1}{3} \frac{3\alpha}{9}\frac{1}{5} \frac{\alpha}{9}\frac{1}{7} \frac{3\alpha}{9%5e2}\frac{1}{9} \frac{\alpha}{9%5e2}\frac{1}{11} \frac{3\alpha}{9%5e3}\frac{1}{13} \frac{\alpha}{9%5e3}
と書ける.

したがって,(半径と周長の半分,もしくは)直径と周長の比は 1 対 3.14159…(中略)… になる. 上記の 100 桁はジョン・マチンによって計算された.

同様に,広く用いられるようになる元となった "Introductio in analysin infinitorum" (和訳本 [JB10])にも

そこで円の半径すなわち全正弦を1と等置しよう. よく知られているように, この円の円周を有理数を用いてきっちりと書き表すのは不可能である. この円の半周は

	    3. 14159 26535 89793 23846 26433 83279 50288 41971 69399 37510
               58209 74944 59230 78164 06286 20899 86280 34825 34211 70679
	       82148 08651 32823 06647 09384 46…
	  

であることが近似的にみいだされた.表記を簡単にするために,これを

π

と書くことにしよう. そうすると,π は半径1の円の半周に等しいことになる. 言い換えると,π は 180 度の弧の弧長である.

とあり,具体的にその π が何から来ているかは書かれていない.